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TOPコラムサテライトオフィス「ICT KŌBŌ®」に見る、地方と企業のつながりによる「働き方の可能性」

<インタビュー>TOPPANにおける新しい地方創生×DXへの取り組み

サテライトオフィス「ICT KŌBŌ®」に見る、地方と企業のつながりによる「働き方の可能性」


さまざまな分野におけるDX化が試みられる中で、TOPPANにおいても、社会や企業のデジタル革新を支援するとともに、当社自体のデジタル変革を推進する「Erhoeht-X®」(※1)の取り組みが始まっています。その事例の一つが、今回取り上げるサテライトオフィス「ICT KŌBŌ®」のプロジェクトです。同プロジェクトの企画と推進を行うDXデザイン事業部の宮竹哲哉さんと、空間づくりに携わる生活・産業事業本部 環境デザイン事業部の山田信之さんに、「ICT KŌBŌ®」を通して見えた、地方における拠点開発の可能性について聞きました。



宮竹 哲哉



山田 信之

TOPPANのサテライトオフィスのプロジェクト第1弾として、2020年4月に長野県飯綱町で開設した「ICT KŌBŌ® IIZUNA」

Q. ICT KŌBŌ®のプロジェクトが始まった経緯を教えてください。

宮竹:
ICT KŌBŌ®は、TOPPANのDXデザイン事業部の人財(※2)採用に向けて始まったサテライトオフィスのプロジェクトです。多くの企業が業務のDX化を進める中で、システム開発に携わるエンジニアの確保が課題となっています。特に東京などの都市部では人財獲得の競争が激しく、その状況を打破するべく、当社では地方都市の人財に注目しました。世の中の働き方やライフスタイルが多様化する中で、U・I・Jターンして地方で働く人が増えています。都心と比べて、拠点を構える際のコストを抑えることができ、またエンジニアの業務は遠隔地であっても可能なものが多いことから、プロジェクトを立ち上げました。

「ICT KŌBŌ® IIZUNA」は、元は小学校であった建物をリノベーションした複合施設「いいづなコネクトEAST」内にある

宮竹:
ICT KŌBŌ®の最初の拠点は、2020年4月、長野県飯綱町に開設した「ICT KŌBŌ® IIZUNA」です。このオフィスは、閉校した小学校をリノベーションした複合施設「いいづなコネクトEAST」内にあります。同施設は「食・農・しごと創りの拠点」をテーマにした場所で、カフェやコミュニティラウンジ、地産のりんごを使ったシードル工場、コワーキングスペースなどが入っています。ICT KŌBŌ® IIZUNAは、2つの教室をオフィス転用し、長野県産の木材や、りんごの木箱を用いた、温かみのある空間デザインが特徴です。飯綱町が第1弾となったのは、TOPPANが「いいづなフューチャースクール」という、自分らしく生きていけるまちをつくるための学びのプログラムに携わっていたことがきっかけで、豊かな自然がありながら、交通のアクセスも良い立地に魅力を感じ、入居を決めました。現在、ICT KŌBŌ® IIZUNAでは14人の社員が働いています。東京から移住と長野出身の社員がおり、その多くが同地で働くことを希望して所属しています。

「ICT KŌBŌ® IIZUNA」では、地産の木材や、名産のりんごの木箱などを内装に取り入れている

Q. オフィスはどのようなデザインコンセプトをもとに計画されたのでしょうか。

宮竹:
ICT KŌBŌ®は、単純に地方に拠点を構えるだけではなく、地元の人財を育みながら、地域とのつながりをつくることによって、新しい企業の在り方、オフィスの在り方を生み出すための場所でもあります。ICT KŌBŌ® IIZUNAは、元は小学校という地域に知られた場所であり、そこに地産の木材などを仕上げに用いることで、親しみやすい空間づくりを目指しています。オフィスには、地元の自治体や企業の人々が訪れる機会もあるため、スタッフが使いやすい機能性と共に、外部に向けて発信力のあるデザインが必要でした。

山田:
現在、ICT KŌBŌ®は長野の他に、沖縄、福岡、広島にオフィスを開設しています。私たちの環境デザイン事業部は2件目の沖縄のプロジェクトから携わっています。各オフィスで共通してフリーデスクの執務スペース、会議室、集中ブース、リフレッシュスペースを設けています。特にエンジニアがメインで作業をする執務スペースは、都市部のオフィスと比べてスペースを広く取っております。「KŌBŌ = 工房」というネーミングにあるように、エンジニアが目の前の作業にストレスなく集中できる環境づくりはポイントでした。また、ABW(Activity Based Working)の考え方をもとに、働く人が仕事の内容や気分に合わせて、いろいろな場所で作業をできるように計画しています。加えて、各地域の地産の素材や、文化を踏まえた意匠などを取り入れ、土地の特色やオリジナリティを出すことで、働く人のオフィスへの愛着が生まれればという思いもあります。

2021年6月、沖縄県が企業誘致を推進する「沖縄IT津梁パーク」内に開設された「ICT KŌBŌ® URUMA」

2022年9月に福岡県大牟田市に開設した「ICT KŌBŌ® ARIAKE」

Q. サテライトオフィスを設けたことで新たに生まれたメリットはどのようなことがあるでしょうか。

宮竹:
これまでは、地元の自治体などに、当社からさまざまな提案やプレゼンなどを行っていたのですが、常駐するスタッフがいる拠点があることで、自治体の方から「こんなことはできないか」と相談をいただく機会が増えました。例えば、長野ではLPWA(省電力で長距離データ通信が可能な通信技術)を用いた地域の防災ネットワークの構築や、沖縄では漁協のシステムのDX化プロジェクトなどが動いています。リモートでやり取りができる時代とはいえ、人と人のつながりは、密接な距離感も大切なのだと感じます。
また、オフィスで働くスタッフの多くは、「もう東京では働けない」というほど、サテライトオフィスの環境を気に入っているようです。社内においては、各地域に拠点を設けたことでその地域の求人への応募が増えるなど効果が出てきています。
 

2022年12月に広島県廿日市市の市庁舎内に開設した「ICT KŌBŌ® MIYAJIMA」

Q. 企業が地方に新たにオフィスや拠点を設けることで、ビジネスにおいてどのような可能性があると考えますか。

山田:
都市部を離れて地方で働くことを望む人財は少なくありません。その潮流の中で、地域に根ざしながら、都市部よりも働きやすい環境づくりを目指すICT KŌBŌ®のようなオフィスは、世の中にリモートワークが浸透し、リアルなオフィスの在り方が問われる現況において、オフィスの価値を見直すきっかけとなるものだと思います。そして、その価値を高めるために、働く人や地域に寄り添った空間デザインが重要になると考えています。

宮竹:
オフィスでの働きにくさや通勤のストレス、コミュニケーションの難しさなど、都市部における職場の問題は、DX化を進めた地方のサテライトオフィスではほとんど問題になりません。一方で、先述の自治体とのDX事業の取り組みなど、地方だからこそ抱えている課題もあって、それはその地域とのつながりがないと見えてこないと感じます。ある意味で、都市部を中心と考えていた企業にとって、地方都市は宝の山であり、これから企業そのものがその地域の宝になれる可能性がある。地域とのつながりを大切にしながら、企業としての有益性を感じてもらう中で、ICT KŌBŌ®とそのDX事業が起点となって、新しいイノベーションが生まれていけばと思っています。
 

expaceで手掛けた「ICT KŌBŌ®」の空間企画・設計・施工例

ICT KŌBŌ®URUMA

花ブロックや琉球瓦などを使用し沖縄の文化や風土を感じられる空間に仕上げました。

ICT KŌBŌ® ARIAKE

昭和11年に竣工された旧大牟田商工会議所をシステム開発拠点としてリノベーション。「新しさ」とともに「地域性」や「歴史」も感じられる空間になりました。

ICT KŌBŌ®MIYAJIMA

廿日市市の中心産業である木材や、鳥居に用いられている塗料を使用し、地域性が感じられるオフィスに仕上げました。

※1 Erhoeht-X®
Erhoeht-X®(エルヘートクロス)とは凸版印刷が全社をあげ、社会や企業のデジタル革新を支援するとともに、当社自体のデジタル変革を推進するコンセプトです。

※2 人財
TOPPANでは、激しい環境変化を克服し、永続的な発展を目指す企業にとって「人」は「財産」であるとの考えから人材を「人財」と表しています。

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